2017年を振り返るとアジアの株式市場のパフォーマンスはトップ・クラスで、債券利回りもソブリン債、投資適格債、ハイイールド債ともに世界で最も魅力的な部類に入るものでした。政治状況はいくつかの選挙を経て落ち着いており、消費とインフラ投資により内需が浮上してきたことから、企業収益は引き続き好調となる可能性が高いでしょう。
2018年6月21日までの年初来、米ドル建て。出所:トムソンロイター、フィデリティ・インターナショナル、2018年6月
しかしながら、こうしたアジア経済に対する勢いは、一部で弱まり始めています。2017年のMSCIアジア(除く日本)インデックスのリターンは39%と非常に高い伸びを見せましたが、2018年に入ってからは上昇が止まっています。米国の保護主義的政策が世界貿易を冷え込ませる可能性があり、特に輸出関連等アジア全域にとってリスクとなっている一方で、米国の金利上昇と米ドル高が新興国通貨に対する圧力となっています。中国経済の成長も金融引き締めの影響から減速している上、テクノロジー業種のサイクルが転換した可能性もあることから、様々な分野で向かい風となっています。
アジア経済は成長を続けていますが、アジア市場全体はばらつきが生じています。今後、アジアの金融市場を見る上でも、各国のマクロ経済全体で測るより、各経済圏で成長分野や成長期待の高い企業を中長期的な観点から見る必要があります。依然として、金融市場のボラティリティが高い中、短期的なパフォーマンスに左右されることなく、中長期的な成長を見据えて投資することが、最大のリスクヘッジとなると考えます。
Chart shows 3-month trailing average daily stock dispersion for constituents of the MSCI AC Asia ex Japan. Daily dispersion calculated as √(∑ wi (ri-P)^2) where ri = daily total return of stock i and P = daily total return of the index, wi = weight of stock i. Source: Thomson Reuters, Fidelity International, June 2018.
1. ASEAN株に上昇の可能性
アジアは一枚岩ではありません。昨年はアジア全域で株式市場のリターンが非常に好調でしたが、パフォーマンスにはばらつきがありました。2018年に入ってからは東南アジアの株式市場が特に弱く、なかでもインドネシアとフィリピンが低調です。これらの市場はアジア全体の市場の中では通常ディフェンシブな部類に入りますが、とはいえ市場変動に対して中立的ということでもありません。今回の場合は米ドル高に対する懸念が大きく作用しています。ただ、ASEAN諸国の内需見通しは改善しており、2018年、2019年ともにGDP成長率が5%を超えるという見方が大方で、これが企業収益の改善と金融資産の質の向上につながるはずです。(1)バリュエーションは過去5年の平均と比べて割安です。そうした中、今後は投資フローや為替など外部環境ではなく、国内の中長期的な成長機会を見定めていく必要があります。
Indices in USD. Source: Thomson Reuters, Fidelity International, June 2018.
2. 市場ウェイトから乖離する必要性
株式の組み入れをインデックスのウェイトに従って行うと、どうしても割高な銘柄、業種、国に集中しがちになります。現在、市場ウェイトに従う投資家は韓国、台湾、香港の株式をオーバーウェイトしている可能性が高く、これらの市場の中でもテクノロジー、銀行、不動産の株を選好しているはずです。テクノロジー・セクターは、テンセント、アリババ、サムソンといった巨大インターネット企業の時価総額上昇によりMSCI ACアジア(除く日本)インデックスの実に約1/3を占めるまでになっています。過去のパフォーマンスに基づいた組み入れを行うのではなく、投資機会を少々深く掘り下げることによって発見することのできる真の投資価値が存在すると思われます。
またアジア市場は、安定的なインカムを提供する市場としても成長しつつあります。アジアの資産クラス間でも配分を調整することによりリスク水準を変え、多様な運用結果を期待することができます。内需関連業種は消費者心理の改善による恩恵を受ける可能性が高く、テクノロジーや金融株よりもバリュエーションも魅力的だと見受けられます。こうした業種としては小売、ホテル、化粧品、ヘルスケア、贅沢品等が挙げられます。これに加えて株主に優しい配当政策をとる企業を重視すれば、思いがけないインカムが得られるかもしれません。
3. 中国市場を掘り下げる
中国の国内(オンショア)株式・債券市場は徐々に開放が進んでいるところです。直近では、中国のオンショア債券市場と世界の債券市場など、他の資産クラスとの相関は今のところ低く、投資先のファンダメンタルズや市場の透明性など問題なければ、分散の候補と成ります。さらに、中国の点心債(ディム・サム・ボンド:中国国外発行の人民元建て債券)のファンダメンタルズに加え、債務増加、市場制度の未整備など懸念する材料は多いものの、グローバル債券市場と特性を異にする固有の市場としてオンショア債券市場が少しずつ発展しています。
また、当然ではありますが、人民元の為替リスクです。しかしながら、時価総額ベースで世界第2位の規模の株式市場を有する中国の資産市場の自由化は、グローバル投資家にとって良いニュースと考えられます。(2)中国のオンショア証券がグローバル株式・債券インデックスに組み入れられることは、中国の投資先が選択肢となり、グローバル投資家にとってメリットとなると期待しています。
市場ではなく企業へ投資すべき
アジアの経済・政治の安定は株式市場や債券市場にとっても追い風となっています。企業収益は引き続き良好に推移していますが、貿易戦争や米国の金融引き締めの影響がもたらす不確実性を考えれば、市場に投資するのではなく、企業へ投資する姿勢を強めるべきと考えます。アジアにおけるアウトパフォームを今後も続けていくには、一段の成長ポテンシャルを持つ企業、世界貿易の冷え込みの可能性をあまり受けない業種、アジアの他地域と比べて割安に推移しているASEAN企業を投資先として厳選する戦略が魅力的です。

経歴
1. IMF, 2018.
2. World Bank, December 2017